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第一章 夏の扉
梅雨も明け、山には強い日差しが注がれている。
秋田県北秋田市消防本部鷹巣消防署指揮隊は、サイレンを響かせながら、標高一四五四メートルの森吉山山麓、曲がりくねった国道一〇五号線を走っていた。葉を茂らせたブナ原生林が見下ろす片側一車線の閑散とした道路である。すれ違う車もない。
出動してから既に八分が経過しているのだが、現場はなにせ本部からおよそ十二キロの距離。直近の森吉分署から出動したポンプ隊二隊は既に現場で活動を開始しているころと思われるが、こちらが到着するまであと四、五分はかかるだろう。
赤い四輪駆動のSUVは、緑に囲まれた同じような景色の中を、これでもか、まだ着かないのかとエンジンを唸らせる。
「大隊長、まだ時間はかかるっすよ」
厚みのある百七十八センチの体躯をどっかりと後部座席中央にすえた笹森麒一郎は、運転席からの声には答えず、腕を組んだまま目を閉じ、車載無線機のスピーカーに二つの耳を集中させていた。現場即報は延焼中である。
(人手の足りねえ分は地元消防団と住民をあてにするしかねえな、年寄ばっかりでなんとも情けねえがしかたがねえ)
地元阿仁消防団員の平均年齢は六十五歳を超えている。迅速な消火活動は期待できない。
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