第一章 夏の扉

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 車内の男たちは落ち着かない。出動した時から同じようなことを口走っている。 「これよ、さっきと同じ場所だべ」 「んだがらよ。どういうこったべ」 「俺だってよ、さっぱりわがんねえ」 「確かにこの目で確認したんだでえ」  運転している通信担当、助手席にいる指揮担当、助手席後ろの情報担当、運転席後ろの伝令らがぼやく。  指揮隊は、災害現場で活動する消防部隊を指揮監督するのが役目である。大隊長、指揮隊長、伝令、情報担当、通信担当の五人で構成されており、災害現場に出動した消防隊の指揮監督、現場広報を担う。そして災害活動の状況を逐一消防本部へ行うことが任務なのだ。  夏場の出動は、防火衣を着装しただけで汗が噴き出してくる。麒一郎の首筋もねっとりと汗をかいていた。 「いいがら、とにかくまず、行ってからだべ」  災害現場を統括する指揮隊が浮足立ってどうするのだ、黙れと言わんばかりに、麒一郎は威厳のこもった声で言った。「まず、安全運転しろ、慌てるな」  指揮隊の皆が焦るそぶりを見せることには理由があった。  出動先は、一時間前に鎮火し引き上げた奥阿仁の火災現場である。  つまり、再燃火災なのだ。
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