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ところで。我は何ゆえ二度聞きに興を引かれるか。
近頃は皆して忘れて見ゆるが、我は、偉い。皇帝陛下の第二子なれば劉国内には血族以外に上位なし、やんごとなき身の上ぞ。
よって幼き日より二度聞きは禁忌のごとく指南された。
二度聞きを求むるは、聴者の理解、話者の発語のいずれかの拙さの主張。つまり己を下げるか相手を責める行いなり。
偉い我が己を下げるは有り得ず、しかし責めては重すぎる。責める意図で成すのも品格悪しき振る舞いにて、二度聞き自体の回避が高位の嗜みとされている。
聞き難きあるいは消化の難き件は側近らが自然に言い直すなり、問いを巧みに投げ返答の体で今一度述べさせて事なきを得るものだ。
では、宮を出て市井に交じり久しき男やいかに。
アレは二度聞きの験しはあるのだろうか。ゾーガイや廼宇らの個性豊かなる物言いを聞けば、アレの態にも興が湧く。
して実は、吃驚をもたらす格好の報を我は持つ。
……馬丹に劉国皇子が身を寄せる、その名は暁。
事前に廼宇に問うたところ、馬丹との会談についてはアレには何ら漏らしておらぬとのことだ。
『まずはゲンサの仕事だろう。隊長に伝達すべきかすら俺には不明、伝達するとて宮廷事情の知が足りぬ。無知による誤報を避けるには会談の中身を言ごと伝えるしかないが、かなりの時を要すぞ』
虚飾なき言が心地よい。
かくも長く我と共にあり対等に語り合い、ヴァル幹部らとの会談にすら隣席していながらも己の及ぶべき範囲を見誤らぬ。己の無知を自覚する。
……無知を、知る。その賢さよ。
となれば、好機。
アレには初なる報を、この我こそがもたらさん。
近頃では内面外面の綻び著しきアレが、二度聞きならずともいかなる驚きの痴態を晒すやら楽しみぞ。ふふふ……。
ヴァルを出立したその日の野営に早速の機をつくり、火元を分けてアレと二人のみの場を得た。
内心にてほくそ笑みつつ、初手からいきなりの衝撃をぶつけてやる。
あわよくば二度聞きを引き出さんと、内緒話の振りをして、要する以上の小声にて……。
「早速だがな。ヴァルにて我は、誠に興深き話を耳にしたぞ。……馬丹に、劉国第五皇子の墨而暁が身を寄せているという」
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