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「ほう~。動きましたかついに」
…………。
はて。
なんぞ。
興覚め以上の衝撃が……。
かような折はっ。威厳、威厳、威厳と三度内心に唱え……平静を保ち……言葉運びは心持ち遅めに……。
「我には初耳ぞ。そなた、いつ知った」
努めて胸を張る我に対し、アレは気楽に首を傾げた。
「諜報がおりますれば。特任隊所属は少なく砂漠地域は兵部治外部に任せるところ、馬丹には数名があり春節前に私の元に届きました」
「しゅんせっ、では現れて間もなく……我には報がないが」
「暁を騙る者は時折出る、まあ偽者ですし都度の報せは控えてございます。この度は馬丹の王宮が匿うのが目新しく気になりつつも、その後の動きがないゆえ適宜で報を得るのみでした。征様は馬丹との会談より知られたのですか」
「……白ババ化粧に隊長口調は合わぬ」
面白くない。
まったく面白くないあまりに、問いかけは無視し今一つの違和を口にした。
「二人きりなれば当然に。誰ぞが聞けば別ですが、聞かれて困るはむしろ征様のお話の中身にございますな」
「ふん。……その者はなぁ、皇割璽を所持するそうな。我が弟がなくす阿呆とは有り得ぬからな、馬丹のそれが真の暁だと我は推す」
「ほほう、来たな」
我の嫌味を完全に聞き流し、アレは白塗りの中で悪魔の面をした。驚きでなく恐れでもなく、秘かなる企みを楽しむごとく。
「一年程前に。西の宮に残した皇割璽が消えてございます。大事なるものゆえ見えぬと気になりますが、出て来てようございました」
「そ、そなたっ。手放していたとは。……公なる証ぞ」
「生涯を全暁士として歩むには意味なき物、返却を申し出ましたが前例なしとて拒まれました。ならば餌のごとくに放置したらば役立つこともあるかと。……本気で偽を騙る者らを誘い出すべく」
皇割璽は真なる証。人目に触れるほどに偽印が出回り易いゆえに常の書面には用いぬ慣例。使用は宮廷内の大事に限られ、我とて成嗣の儀を経て成人皇族に名を連ねた折と西中都を拝領した折の二度のみだ。
……とはいえ。
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