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⑥
「身体に気をつけるのよ。忙しいし通信が不安定なこともあるだろうけど、できるときに近況をメッセージしてね」
「うん! ありがとう、お母さん」
成田空港の搭乗ゲートで、結愛と葉月が抱擁している。
「……」
光汰はその後ろで涙を堪え、奥歯を噛みしめていた。
今日結愛は、海外への派遣医師として遠い外国へと旅立つ。
結愛の「大事な話」はそれだった。恋や結婚よりも、結愛は多くの人の役に立つことを熱望した。光汰はそれならば日本でもできるだろうと言ったが、日本は充分な医療体制があり、優秀な医師がたくさんいる。だが足りていない国がある。自分はまだ医師としては半人前だが、少しでも苦しむ人々の力になりたい。そうしながら学び、立派な医師になりたいと、まっすぐな瞳で言った。
────ああ、思えばこの子は、幼い頃から意志の強い瞳をしていた。
保育園への道を歩きたがったときも、字の練習を始めたときも、中学受験を決めたときも、将来の進路を決めたときも。
光汰は結愛を愛して見守ってきたつもりだったが、結愛はいつでも自分で決めていた。
「もう~お父さんってば、変な顔しないでよ」
葉月との抱擁を終えた結愛が、笑いながらも困り顔をする。
「いや、うん、大丈夫。元気でな、応援するしかできないけど、いつも結愛のこと、思ってるから」
「……知ってるよ。ありがとう、お父さん」
「結愛……!」
結愛が笑顔で「ありがとう」を言ってくれた。眩しいくらいにかわいくて感動していると、
「……ん? なんだ?」
ポケットに手を突っ込まれた。同時に、搭乗案内のアナウンスが流れる。
「じゃあ! 行ってきます!」
ポケットから手を出した結愛は、その手を高く上げ、光汰と葉月に大きく振りながら旅立って行った。
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