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インターバル キャメロット
ああ、いいのよ気を使わなくて。どうぞゆっくり寛いで。
珈琲にミルクは? そう? 私はストレートが好きだけれど、モカもラッテも嫌いじゃないわ。
さて嗜好の話はとても楽しいものだけれど、本題に入らなくては時間も珈琲も無駄になってしまうわね。珈琲を美味しく飲む為に、さっさと用件を伝えましょう。
貴方、キャメロットっていう言葉に聞き覚えはあるかしら?
ええ、そうね。イギリスの伝承とは別に。現在、NYに存在する一つの機関としての名前よ。まあ、知らないのが当たり前なの。そういう風に、私達は秘密を守って動いている。
簡単に言うと、『秘密組織』。
いやね、今フリーメイソンみたいなものを想像した? 残念、そんな悠所正しいものじゃないわ。キャメロットは結成してまだ年浅い未熟な機関で、まだまだ、再構築が必要な部分も多いの。
私達キャメロットの所属は貴方の勤務するニューヨーク市警察ではない。連邦捜査局……そう、FBIよ。そしてその主な仕事は……なんて説明したらいいかしら。スカウトは初めてじゃないのだけれど、専門外の子に説明するのは初めてで、言葉に困っちゃうわね。とにかく一回彼とお話してもらうのが一番だとは思うのだけれど……。
ねえ、アーサー。キャメロットは知らなくても、こんな都市伝説はきっと貴方も知っていることでしょう。
NYの地下には、魔法使いが住んでいる。
これは、貴方をその魔法使いの相棒にするためのスカウトよ。
……いやね、なんて顔しているの。そこそこ男前なんだから、口はきれいに閉じていなさい。私はこんな街はずれのカフェで、わざわざ非番の警察官を呼びだして妄想を垂れ流す程暇じゃないわ。事実をその目にしないと認識できない、という判断力は評価するけれどね。
この紙きれを見なさいな。ほら、きちんとFBIの署名が入っている。偽造じゃないわ。
そしてこの書類にサインした瞬間から、貴方の人生はキャメロットに狂わされる事になる。
今すぐに決断しろ、なんて言わないわ。私の説明も不十分だし、何より貴方は今正常な判断力が低下していることでしょう。情報も足りない筈ね。判断は、私の説明を聞いて、そして魔法使いと話してみてそれから悩んで決めてほしい。
きっちりと悩んでいいわ。人生を決める選択だものね。
でも、彼の存在を誰かに相談したり、漏らしたりしたらダメ。一言くらい、だなんて思ったらいけない。いつだって貴方の口は私達に見張られている。そしてこの書類にサインし、キャメロットの仲間になった暁には、更にその口は固くなってもらわないと困る。魔法使いはおとぎ話でなくてはいけないのだからね。
うちのウォーロックの立場はまだ危ういのよ。FBIとNYPDが掻っ攫おうといつだってお互いけん制しあっている。だから、彼に一番近い手足には、どちらの草鞋も履いてもらわなきゃならないの。
貴方はニューヨーク市警察の刑事に昇格するとともに、FBIにも所属してもらうことになる。それは多分、とても稀で、想像できない程大変な事ね。
ねえ、アーサー。この仕事は恐らく辛いモノになる。それでも、得るものの大きさはきっと貴方の想像を超える。それを私は約束しましょう。
キャメロットと魔法使いは、きっと貴方を歓迎する。
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