45 side山 オフ会

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45 side山 オフ会

 鏡の前で、何度も確認する。おかしなところはないだろうか。今日の俺、変じゃないだろうか。  マリナちゃんの放送から一週間以上が経った。本当はすぐにメッセージを送るつもりだったが、何度も迷って悩みに悩み、ようやく送れたのは三日も経ってからだった。マリナちゃんはすぐに俺が本人であると信じてくれたようで、返信があった。そして。 『良かったら、オフで逢いませんか?』  まさかの返事である。  生身のマリナちゃんに逢えるなんて、こんな機会滅多にあるわけない。夢じゃないかと何度も確認して、実は自分の妄想じゃないかと疑ったりもしたが、どうやら本当に本当らしい。  マリナちゃんもあの頃と同じく地元に住んでいるらしく、駅の近くにあるコーヒーショップで会うことになった。いつもは画面の向こうにしかいない君。マイクを通した声でしか、聞いたことのない声。高校の時に出会った、思い出の相手であることも解ったが、覚えているのは涙をためたキラキラした瞳で笑った顔だけだ。 「はぁ……、緊張して、胃が痛くなってきた……」  溜め息を吐き出し、眼鏡を掛けなおす。待ち合わせまでまだ一時間以上ある。出るのは早いだろうか。いや、待たせるのは良くないし、何か手土産でもあったほうが良いかも知れない。駅でなにか見繕って、渡すのはどうだろうか。地元に住んでいるのに地元のものを買うのは変だろうか。悩む。 (隠岐には、言ってないんだが……)  同じマリナちゃんのファンである隠岐が聞いたら、きっとうらやましがるに違いない。内緒にしているわけではないのだが、なかなかタイミングが合わなかったことと、高校の時の話をしなければならないのが、なんとなく憚られた。終わったら、報告はしようと思っている。なにより、隠岐には色々と話したいことがあるのだ。 (マリナちゃんに、バーチャルストリーマーのこと聞いてみようかな)  隠岐がバーチャルストリーマーを目指していることについて、マリナちゃんからアドバイスを貰えたら、隠岐も嬉しいんじゃないだろうか。俺が作ったキャラクターは、マリナちゃんによく似た『マリナちゃんに弟がいたらこんな感じ』ってキャラなので、正直キャラクター作りについてもアドバイスを貰いたい。 (なんで俺は、今から『推し』に逢うってのに、隠岐のことを考えてるんだか)  考えると、おかしくなってしまう。隠岐のことは、俺の中で思っている以上に存在が大きくなっているようだ。隠岐が目指したいものを応援したいと思うくらいには、隠岐のことを気に入っているらしい。  逢って何を話そうか、少々気持ち悪いことになるんじゃないかと危惧していたが、こういう切り口の話だったら話題にも良いのではないだろうか。もちろん、いきなり同業者になりたいんだがと言われても困惑すると言うのもあるだろうが。まあ、そこはマリナちゃんなら聞いてくれるんじゃないかという期待を込めておこう。 「うん、もう出よう。なんかいつまでも鏡の前から動けなくなる」  俺はそう呟き、鞄を背負って寮の部屋を出たのだった。  ◆   ◆   ◆  時間より少々早いので、俺は駅ビルにあるバナナジュース専門店でチョコバナナを買うことにした。もしかしたら地元ということなので、マリナちゃんも知っている可能性は十分にあり得たが、まあそこはご愛嬌という奴だ。  カラフルなチョコバナナを五本ほど購入し、待ち合わせ場所のコーヒーショップに向かう。 (取り敢えず、SNSでやり取りできるから、多分逢えるよな……)  すっぽかされない限り、逢うことが出来るはずだ。緊張しながら、コーヒーショップの扉を開く。SNSのメッセージを見れば、あと少しで着くということだったので、先に入って席を取っておくことにする。  待ち合わせだと告げて中に入り、ドキドキしながらメニューを眺めた。チェーン店のコーヒーショップの季節メニューを眺めていると、スマートフォンに通知が入る。 『着きました』  その言葉に、窓側の左から二番目の席だと告げる。緊張で、手に汗が滲んだ。深呼吸して瞳を閉じる。 (はあ、ヤバイ。マジで緊張する……)  すぐ近くに、人の気配を感じて、瞳を開けた。 「――あれ?」  その声に、顔を上げた。
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