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新年を祝うパーティーをするから来いよと誘われ、友人宅へ赴いた。元旦からどかっと降った雪を漕ぐようにして、徒歩圏内のアパートを目指す。「パーティー」なんて大袈裟なことを言っていたけれど、どうせ俺くらいしか呼んでいないのだ。少しくらい遅れても文句を言われることもあるまい。
そう、たかをくくってたどり着いたアパートの一室は、唖然とするほど多くの人間で混み合っていた。レゲエ風半袖Tシャツの陽気な男、見るも鮮やかな振袖姿の女性、リュックをしょった小さな子供数人、かくしゃくとしたおじいさんと、それに寄り添うおばあさん。学生服の青年、セーラー服の少女、部屋着にエプロンのおばさん、スウェット姿のおじさん。その他、カテゴリ分けにも苦しむような、雑多な服装の人間が何名も。
その中から、友人の手がちらりと見えて、手招きをした。と同時に、声も聞こえた。
「なんだ、遅かったじゃないか」
「あ、ああ……ごめん」
自然と萎縮して、俺は人混みの中へ分け入っていく。
「なあ、パーティーって言ってたけど……この人たち誰」
「友だちだよ!」
狭い1LDKで、座る場所もない。みんな立って、手にグラスを持って笑い合っている。そのさざめきの中で、友人が叫ぶように答えを返す。なんだか急速に、心細くなってきた。
「お前、こんなに色んな友だちがいたんだな」
「ええ? なんだって?」
俺が買ってきた差し入れが、知らないおじさんの手に渡る。それを空けて、知らない女性と男性が歓談している。友人の背中が、知らない人たちの中に見えなくなった。
「あ、ちょっ……」
慌てても、踏み出した足を戻すこともできないほどの混みようだ。まごついている間に外が暗くなってきて、誰かが持って来た虹色の置き型ライトが、くるくると回り出した。なんだあのパリピ仕様のライト、と思っていると、足元に座っていた小学生がぼそりと呟いた。
「ミラーボールだよ」
あれが?
俺が知っているミラーボールは、銀色で光を反射する吊り下げ型の物だ。あんな風にくるくる回りながらカラフルな光を撒き散らかすライトなんて知らない。
「え? ……知らないの?」
小学生がギョッとした顔で俺を見上げた。途端に、それまで楽しげにしていた知らない人々の視線が、俺に向けられた。歓談は止まり、笑顔は消え、嫌な沈黙が充満した。
「え……何、だめだった……です、か?」
恐る恐る尋ねると、周りの人間たちがどんどんと詰め寄ってきた。真顔、真顔、真顔。足元にも小さな子供たちがいるせいで、しゃがんで逃げ出すこともできない。恐ろしくて身がすくみ、悲鳴もあげられない。
知らない人間の顔で埋め尽くされていく視界に友人を探すが、見当たらない。……そもそも今日、俺はあいつの顔を見たか?
「……ひいっ……」
失神する寸前、「人間文化のリサーチ不足だったな」という、落胆した声が耳に届いた。
「おい、大丈夫か?」
耳慣れた、今度は間違いようのない友人の声に慌てて体を起こすと、そこはさっきたどり着いたアパートの廊下だった。半分外のようになっている場所だから、とても寒い。
「転んだのか? いくら待っても来ないから心配して探したよ。ひとつ下の階にいるなんてな」
「あ、ああ……転んだ、のかな」
転んで頭を打って、変な夢でも見たのかもしれない。
「それにしても随分長いこと寝てたんだな。もう夜明けだよ」
風邪ひくんじゃないの、という友人の声に苦笑いをしながら、ふと、足元に転がっていた物に目が留まる。
虹色に光る、置き型のライト……
「ミラーボールじゃん」
友人が拾い上げようと身を屈めたとき、それはすうっと光に溶けるように消えてしまった。
「え!? え、何? なんで消えたの」
「いや、それよりアレ、ミラーボールなの!?」
互いに噛み合わない話をしながら、階段を上る。
差し入れは正体不明の何者かに盗られてしまったが、まあいい。
これで、ようやく新年を祝うパーティーを楽しむことができる。
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