第三章・―深淵との対峙―

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 それが、初手で得たオフィーリアの感想だ。  ……だが、と。勝てる見込みもない、絶望に支配されそうな脳裏を過るのは、妹として引き取って育てている、ルフィナの笑顔だ。  ただでさえ、自らが勝手に抱える諸事情のせいでジリ貧の生活を送らせているというのに、このまま給料を削られてしまえば、更に迷惑をかける事になってしまう。  自ら言い出した処分方法とはいえ、活路を見出だせるならば多少みっともなくとも、縋りつくべきである。  プライドなど、何の腹の足しにもならない事は、経験上オフィーリアが一番良く心得ている。  こうなれば覚悟を決めて、オフィーリア自身の給料というより、大切に育てているルフィナの未来のために、形振り構わず絶対一矢報いて見せる。  それしかこの絶望的状況を覆す方法はない。  ルフィナの笑顔を思い浮かべ、次いで相棒の顔を思い出す。  言えば「また一人で無茶な事を」と説教モードに入るだろうなと、思わず小さく笑う。  今は三人の未来を守る。その為だけに、ジョシュアに挑む。  不覚にも動揺してしまった気を落ち着けるため、目をとじて一度深呼吸をする。  大丈夫だ。  何をされたのか、それは()()らなかったが、取り敢えずオフィーリアは初手を避けられた。  落ち着いていけば、攻略する隙はどこかにある筈だと、自分に言い聞かせながら構える。  ――本気でいく。  例え相手が直属の上司だろうが、こちらを殺しにかかってきている以上、隙を見せたり容赦してはいけない。  殺られる。もしくは負けに向かって一直線だ。  噂ではジョシュアは、ありとあらゆる体術をプロ以上の仕上がり、レジェンド級の腕前でマスターしてきている筈で、どうあがこうが体重が軽めであり、どうしても攻撃が重い一撃にはならないオフィーリアには、不利でしかない条件が揃いまくっている。
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