第一章・―指南役、罰ゲームの餌食に―

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 ーーここはイグレシオン。そう大都会でもなく、だからといって、ド田舎でもない。  よくあるような、特に大事件も起こらない、比較的長閑(のどか)な街並みが並ぶ、平和な場所である。  そんなイグレシオンに佇む、何だか場違いな所轄署がある。  イグレシオン署陰契課。世間からは吸血鬼と呼ばれ、恐れられる“昏きもの”を主に雇い、人間も入り交じって働く。  そんな人間が犯す犯罪専門ではない、何か超常現象とか、“昏きもの”が起こす事件や事故を取り締まるような、いわゆる対“昏きもの”用の警察署である。  そんなイグレシオン署にある道場で、何故かばっちり決めたスーツ姿で対峙しているのは、オフィーリア=コーラルブルーとジョシュア=ブラックホークの二人であった。  署員同士の些細なすれ違いからイグレシオン署の道場を破壊してしまい、修繕費をどちらが払うか決定するバトルを繰り広げるため、こうして向き合っているのだ。  オフィーリア自身、ジョシュアと手合わせするのは初めての出来事に近いため、いつもシャークから無理矢理聞かされる愚痴でしか、実力を知り得ない。  それでも、半分以上は聞き及んだ中からオフィーリアが勝手に想像する範疇に過ぎないため、事実、全く未知の相手と闘うと言っても過言ではない。  オフィーリアは、とてつもなく嫌だった。  何故、何が悲しくてわざわざ最強上司と謳われるジョシュアと手合わせしなければいけないのか。  今更男気を見せろとか言われても、オフィーリアは昔から腹の足しにも、まして持っていても金にすらならないプライドなんぞ、笑ってドブに捨てるような生き方すらしてきたというのに、要らんお世話なのである。  ただ、頭の片隅には“生活費”の三文字がちらついているのも確かな話であった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!