第一章・―指南役、罰ゲームの餌食に―

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 いっその事こちらが出方を伺って、初手がくるのを受けた方が何とかなるのかも知れないかと、少しばかりシミュレーションしてみる。  シャークは自身の手の内を明かさない代わりに、初手を大事にするタイプであるように思える。  戦闘において、確かに初手は大事であるのだが、時に現状不利を崩すために受け身になるのも、また戦法の一つなのだ。  いつも攻めるばかりではいけない。まして、ジョシュア相手なのだから、正攻法では通じない可能性の方が高いと判断しても良いだろうとは思う。  深呼吸をして気持ちを落ち着ける。  トウジには知らせる間もなくここまできたが、隣にいたところで結果はそう変わらなかっただろう。  むしろ物凄く気を使われた上、自分が身代わりになるとまで言い出しかねない。  トウジvsジョシュアの試合内容など、想像ですらしたくもないものだ。  そうなるともう、収拾がつかないのは明白で、ある意味これで良かったのだと言い聞かせてジョシュアに視線を向けた。  ジョシュアは既に臨戦態勢に入り、例によって審判役を買って出た、シェイカーからの合図を待っている様子であった。  改めて覚悟を決めると、合図を促すためにシェイカーへと視線を向けると、当然の事ながら、不安と心配そうな感情が入り交じった、複雑な表情で口パクされる。  口元を観察した結果、「本当に大丈夫か」と問われているようだったので、力強く頷くと、無言の内に合図を促した。  これ以上迷っていても仕方ない。  拒絶出来ない以上は、真っ向勝負を挑んで結果を出すより他ない。  シェイカーはそれでもしばらく迷っているようだったが、やがて顔を上げる。 「それでは、試合、始め!」  その言葉と共に、真剣勝負の火蓋は切って落とされたのだった――。
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