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何が何だかわからないが、桃子が手を伸ばした先にあるブラを手渡してやると
「ありがと…カズくん」
いつも通りの声に、少し気まずいような音を乗せた桃子が微笑む。
「ごめんね、カズくん…驚いたでしょ?」
「…うん…具合が悪いわけじゃない?」
「うん。でもね…私、おかしいの…人と違うの…生まれたときから…黙っていてごめんなさい」
「違うって?何が?」
「私ね、ピンクのものが肌に触れていないと声が出ないの…赤ちゃんのとき、お風呂で両親が気づいたんだけどね。おかしいでしょ…」
一瞬何を言われているのか分からなかった。でも出てきた言葉は
「そっか…それだけならいいんだ…ホッとした」
だった。
「いいの?気持ち悪くない…?」
「ない。桃の節句に生まれた桃子がピンク…桃色を手放せない子だってこと…それだけ」
「それだけ?それだけ…なの?」
「うん?違う?他にも何かあった?」
「ううん…それだけ…か…良かった…カズくんに嫌われることも覚悟で家族以外に初めて打ち明けたの」
「嫌うはずないだろ?俺だけに打ち明けてくれたなんて、ますます桃子は特別」
俺が特別な一日だと思って準備していた今日、桃子もまた自分の秘密を打ち明ける特別な決意をしていたのだ。
「ちょっと待って」
俺はうちに桃子が置いていたピンクのヘアゴムを取りに行くと、彼女の手首にそれをつけた。
「これで…いい?」
嬉しそうに頷いた桃子は握っていたブラを手放すと、その手を俺に巻きつけキスをした。
[完結]
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