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緒二子視点
DV夫だなんて思わなかった。
高学歴で見た目もいいし、仕事ができる。
実家はお金持ち。こんな優良物件と結婚できるなんて。
私はとても浮かれていた。
親も決していい親でもなく、虐待されたこともあった。
名前だって、普通の名前をつけないなんて、一生恥をさらせと言う親の虐待のひとつだ。
お付き合いの期間は短かったけれど、ちゃんと恋愛をして結婚をした。
付き合う期間が長ければいいというわけではない。
ましてや、結婚となると、恋愛とは別だと思っていた。
今まで恋愛した男は、お金がなくても見た目重視だった時期もあった。
でも、お金がなければ愛を持続できない。
つまり、愛を持続するためには安定した収入がある人間を選ばなければいけない。
見た目もできればいいに越したことはないが、そこは重要ではないと思い婚活していた。
とはいっても、コミュ障気味な私は女友達がいるわけでもなく、彼氏はいても、体目当てのようないい加減な男ばかり。
そんな時、結婚相談所で紹介された男性がとても理想通りだった。
優しく紳士的で家事もできる。
物腰が穏やかで怒りを表すこともない。
私は、きっとずっと幸せが保証されたと思い、婚姻届けに判を押した。
しかし、現実は――そう甘くはない。
仕事を辞めて自宅にこもる日々。夫が帰ってくるのが怖い。
昨日も罵倒された。
でも、どうして、こんなに私に当たってくるの?
言葉の暴力はDVではないと思っている人が多い。
しかし、言葉の暴言は暴力だ。つまりDVだ。
命の危険がないならば、行政の救済措置は難しい。
しかし、逃げたくても私には友達がいない。
ずっと一人だった。
人間関係が築くのが苦手な私は、特定の友達がいない。
夫はそんな私を受け入れてくれた。
それは、逆らわないし、誰にも相談できないからだなんて思っていなかった。
親は死んでおり、親戚づきあいもない。
そんな私だが、わりといい会社に就職していた。
でも、コミュ障故に仕事も円滑にできず、友達もできなかった。
地方出身だから友達がいないというよりも、地元の友達すらもいない。
おかしいと思ったんだ。こんな普通以下の何も秀でていない私がそんなにハイスペックな人と順調に結婚できるなんて。
彼は、当たる場所を探していたのだ。
騙された。
DVセンターに電話したけれど、離婚しろと言われる。
でも、今後、仕事が見つかるのか。
貯金はあまりない。
夫がいなければ経済的に不安だ。
そして、今後仕事でうまくやっていける自信も、相談できる相手もいない。
結婚して辿り着いたのは最悪の流刑地だったのかもしれない。
最近、夫の暴言が増幅している。仕事がうまくいっていないのだろうか。
相手の実家に相談しても取り合ってもらえない。
親にしてみれば息子がかわいいけれど、嫁がかわいいわけではない。
息子をかばうが故、そとの人に話さないようにと口止めされた。
息子の評判が落ちるのは困るということだろう。
今日は、一段と激しい。
「出ていけ!! なんで俺がこんなに一生懸命働いているのにおまえはただ家にいるだけだろうが!! もっと敬え!!」
ティーカップや花瓶が飛んでくる。
夫は割れた花瓶を持って突き刺すような姿勢を取った。
殺される!!
私は、サンダルをなんとか履いてそのまま外に飛び出した。
あのまま取っ組み合いになっても、力で勝てるわけがない。
ケガをするだけだ。
今までも、殴られたことも数回あった。
これからもこんな出口の見えない生活が続くのだろうか。
財布がないし、上着もない。
困ったな。どこに行こう。
せめて財布があれば――。
「大丈夫ですか?」
知らない男が声をかけてきた。
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