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知らない人の布団で眠ってしまった。
洗濯されていたのか、柔軟剤のいい香りがした。
あの香りは、私が使っているものと多分同じだろう。
「おはよう」
一見暗そうに見える真王は朝の光に照らされると、イケメンだった。
朝ごはんのいい香りがする。料理は上手で、色とりどりの朝ごはんが並べられる。
「どうぞ。好きなだけうちにいていいよ」
どうして、この人はこんなに優しいのだろう。見返りナシの優しさなんてこの世にあるのだろうか?
この人は聖人なのだろうか? ただ、ボランティア精神にあふれた人間なのだろうか?
笑顔も優しい。髪もよく見るとサラサラしている。
「夫は朝食作ってくれなかったから」
「ひどい夫だね。俺ならそんなことしないけれどね」
「どうして、私のことを救ってくれるの?」
「困っている人がいたら、助けるのが人情でしょ」
「あなたは毎日外に泊まるなんて、お金かかるし」
「大丈夫。君のためならば犠牲はいとわない」
王子様みたいだ。
完全に射抜かれた。
♢♢
信頼が深まる。温かな料理に優しい態度。誠実な対応。全てが揃い、時間が経てばその時が来る。
真王はそう思っていた。
あと少しで信頼と愛を得られる瞬間がやってくる。
そう遠くはない日に。
緒二子のことは真王が一番よくわかっている。すぐに騙され、すぐに人を信じるタイプだ。
だから、すぐに今の夫と入籍した。夫の本性に気づくことはなかった。
真王はずっと見ていた。
緒二子が恋に落ちる前から、恋に落ちて結婚する過程をずっと舐めるように見ていた。
何もできなかった。夫となる男よりも強みは何もない。
それに、その男について調べると元彼女がDVを受けたという話を聞いた。
つまり、結婚後にチャンスは来る。
虎視眈々とずっと真王はその時を待っていた。
柔軟剤の種類もわざわざ調べて同じものにしているなんて彼女は気づいているはずもなかった。
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