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穏やかな日が過ぎた。相変わらずただ、風呂を借り、洗濯機を借り、服を借りる。
寝る場所と料理を提供される。この間、彼はバイトで忙しそうだった。
献身的な真王に対して、緒二子の心は胸が熱くなっていた。
「今日は、一緒にいてください。夫が探しているかもしれない。でも、もう帰りたくない」
涙を流しながら訴える。
心が壊れかけていた。外部とのつながりはない。
下手に外出すると夫に見つかる。
ここがバレたら二度と外出できないかもしれないし、真王に会えないことがなにより辛くなっていた。
彼といると安心する。
「もちろん一緒にいてもいいよ。もちろん、寝る場所は隣の部屋だから安心して」
隣の部屋で寝るから、安心して、という言葉にがっかりした自分に気づく。
一緒の部屋で、一緒の布団で眠りたい。そう思っていた。
「真王くんのこと、教えてほしいな」
「話すことなんて何もないよ」
「じゃあ、私の話を聞いてよ」
「もちろん」
♢♢
遅くまで話し込む。でも、まだ何もしない。
してほしいと思わせるくらいがちょうどいい。
この時が来た。真王は拳をにぎる。何年もずっと眺めてきた人と狭い一室で一緒に一夜を共にする。
もちろん何もしない。だからこそ、彼女は心を開く。
女は聞いてもらえるだけで満足するらしい。そんな事実を知っていた。
真王は緒二子の一番になるために懸命に尽くす。
合法的な誘拐犯となるために――。
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