<35・Future>

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<35・Future>

 何を言われているのか、理解するまでしばし時間を要した。恐らくそれは、トレイシーの方も同じだろう。 「……茶番だと?随分失礼なことを言うんだな、貴方は」  先に剣呑な声を出したのはトレイシーの方だった。 「何が何だかわからない。もう投票は終わっただろうが」 「いいえ、本当に肝心なことは何一つ終わっていません」 「何だと?」 「全部わかっているって言ってるの。……そうですよね、ドミニク」 「!」  まさか、そこに水が向くとは思ってもみなかった。セリーナとトレイシーは、ほぼ同時にトレイシーの実兄を見てしまう。  屈強なスポーツマン気質の青年は、後ろ頭をぽりぽりと掻きながらため息をついた。 「ま、そうだな。……二人とも頑張ったとは思うけど、ちょっと無理がすぎたな。犬猿の仲ってことにしようとしてたんだろうが、もし本当にそうなら……トレイシーの部屋に、あんな絵があるはずがない」 「に、兄様。人の部屋に勝手に入るなと言ったでしょう!?」 「弟の様子があからさまにおかしかったらそれくらい調べるっつーの。お前、そういうこと気にするなら昔から部屋の鍵かけ忘れる癖治せよな。変なところで抜けてるんだっつーの」 「!」  その言葉に、トレイシーが完全に絶句している。あの絵、というのが何を示すのか明白だった。セリーナがトレイシーに描いて渡した、フレイルピーチの木と二人の絵だ。  あれを見られたら言い訳が難しい。いや、もしかしたら姉の方も。 「……お姉様も見たの?」  描きかけの絵を、どこかで見られていてもおかしくない。セリーナの問いにブリトニーは肩をすくめて“一枚目の時にちらっと見ただけですよ”と言った。  書きかけの状態の絵は見ないで欲しいと言ったのに、とセリーナは唇を噛み締めるしかない。やはり、そんな言葉はこの姉には無駄であったらしい。 「セリーナ、僕が冬に、君に言ったこと覚えてる?」  口を開いたのは、セリーナの兄でブリトニーの弟である、リオである。 「絵には、その人の思想や感情が如実に表れるって。セリーナは特にわかりやすいってね」 「お兄様……」 「ドミニクがさ、僕達に絵の写真とって、メールで回してくれたんだよね。だから直接実物は見てないんだけど、それでも理解するのには充分だったよ。あの時の会話、覚えてる?」 『今の君は、何を望んでいるのかな?何を願って、絵を描いている?』
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