<34・Meeting>

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 ***  前に見た時と、そっくり同じ光景が繰り広げられている。  食事の後の会議は、ほぼ罵り合いにも近い状態に陥った。前の世界の時と違うのは、セリーナが一方的に言う側ではなかったこと。トレイシーも極めて冷徹に、セリーナの非を指摘してきた。思えば、前の世界の時のトレイシーはセリーナを慮って控えていたのだろう。  今は違う。お互い了承の上で、ヒーローと悪役令嬢を演じている。 『本当にいいのか。俺は……お前だけが、汚名を被るようになるなんてことは、本当は……』  トレイシーは憔悴した顔で、ギリギリまで渋っていた。それを撥ねつけたのはセリーナだ。  彼は継承者になるために人望を集めなければいけない立場。自分はその逆。こうして顔を合わせて話すのも本来避けなければいけなかったのだから、と。 『私は、貴方が分かってくれるなら……何も辛いことなんてないわ。だから』  当日は、可能な限り皆が票を入れやすくなるように。 『徹底的に敵対しましょう。……なるべく私はヒールらしく、汚い言葉でもなんでも使って貴方を罵るから』  我ながら、よくぞまあここまで言葉を並べられたものだと思う。トレイシーの言葉足らずなところ、誤解されやすいところ。そういった小さなところから、さらには身体的特徴まで揶揄して盛大に罵った。継承会議に参加した他の兄弟たちがドン引きするくらいには。 ――バケガラスみたいに真っ黒で気持ち悪い顔だとか、色が白すぎて不気味だとか、そんなこと全然思ってない。……その艶やかな髪も、透き通るような肌も、宝石みたいな青い目も全部全部全部……好き。大好き。  大好きなものを、片っ端から否定する。それが自分の役目だから。皆に嫌われなければ意味がないから。  何も怖いものなんてない。  前の世界の自分とはもう、違う。だから。 「嘘よ」  震える声で、セリーナは告げるのである。あの日と同じように、全ての投票が終わった後で。  悟られないようにしなければいけない。言葉に滲む安堵のため息を。ああ、思い通りになって本当に良かったと。 「こんなはずがない。私が、私が選ばれるわけがない……!何で、よりによって私が“追放者”なのよ!?一族から追い出されなきゃいけないのよ!!」  ガンッ!とテーブルに拳を叩きつける。白い板が派手な音を立てて揺れ、まだ幼い少年少女たちがびくりと肩を震わせるのを見た。それでも、セリーナは怒りを収めようとは思わない――そういう演技を心がけた。  自分は悪役令嬢、セリーナ・イーガン。  この八人の中から、次の魔法族の継承者を決める。同時に、一番役立たずで魔女の素質がない追放者を多数決で決定する。それが、この会議の議題。  傲慢にもセリーナは、自分こそが継承者であるはずとばかり思っていた先代当主の次女。そのために今回はあからさまなほど根回しはしたという設定。兄と姉にもしつこく自分に票を入れるように頼み込んだし、立場の弱いタスカー家の者達はしっかりと圧力をかけてきた、そういうことになっているはずだ。
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