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伝統ある、“磔刑の魔女”の一族。それが、セリーナたちだった。
科学の力に押されて衰退しつつある魔法の力を維持し、守り続けていくのが自分達血族の役目である。ちなみに便宜上“魔女の一族”と呼ばれるが、当主が常に女とは限らない。磔刑の魔女、とは称号の名前であり、仮に当主が男であってもそう呼ばれることになる。この世界は、男も女も平等に当主を継ぐ権利を持っているのだ。年功序列も関係ない。必要とされるのは、一族をまとめる器量があるかどうかと、魔法の素質があるかどうかだけである。
魔女の一族を仕切るのは、御三家と呼ばれる三つの家だ。
セリーナの家である、イーガン家。
あのトレイシーの家であるパーセル家。
そしてあと一つが、現在御三家で最も力が弱いとされるタスカー家である。
基本的に、次の一族の当主はこの御三家の中から選ばれることになる。現在の当主が一定の年齢になるか、もしくは病気や怪我で死の淵に立たされると“継承会議”が開催される。この会議では、跡継ぎとなる御三家の子供達が集まり、直に話し合って次の当主を決定するのだ。そして跡継ぎとなった者が、次代の当主、磔刑の魔女の称号を継ぐのである。
問題は、この会議で決められるのが継承者だけではないということ。
そう、伝統で必ず決められていることがあるのである。それは――継承者と同じくして、一人の“追放者”を決めなければいけないということ。
つまり跡継ぎ候補の子供達のうち、誰か一人、一族で最も足手まといで不要なものを“追放者”として選ばなければいけないということである。
追放者とされた者は、数日中に家を出ていかなければならない。当然、苗字も捨てることになる。一族では死んだものとして扱われ、二度と家族と会うことも叶わない。それがどれほど不名誉なことかは、言うまでもないだろう。
――だから、私は何がなんでも継承者になるつもりだった!そもそも、私のような優秀な魔法使いが、役立たず呼ばわりされるなんてことあるはずがないと思っていたのに!
今。セリーナは地下牢に入れられ、ベッドで唇を噛み締めている。
磔刑の魔女、つまり跡取りになりたかったわけではない。それでも、自分は一族で最も優秀な魔法使いだと信じていたセリーナにとって、己が“認められない”ことなどあり得ない事であったのである。自分は当然選ばれ、讃えられるべき存在だ。魔女の仕事などどうでもいいが、それによって与えられる名誉がセリーナはどうしても欲しかったのである。何より、いけすかない兄弟姉妹たちを見返してやりたかったのだ。
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