<1・Execution>

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 それが何故、よりにもよって自分が追放者になるのか。しかも、地下牢に入れられた直後、セリーナは現在の当主である父、バリー・イーガンに告げられることになるのである。 『追放者となった者は、正確には追放されるのではない。一週間以内に、人知れず処刑されることになるのだ。役立たずの魔女の血を、よそで残させるわけにもいかんからな』  そう。  自分はもうすぐ処刑されることになる。あの継承会議で、追放者に選ばれてしまったばかりに。 「ふざけんじゃないわよ……!」  ガン!と石牢の壁を殴りつけるセリーナ。 「この私が!追放されるばかりか処刑されるですって!?この優秀な私が?ありえない……ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないっ!」  こうなったのも全て、あいつのせいだ。  トレイシー・パーセル。  次男のくせに、兄のドミニクを差し置いてパーセル家を仕切る冷血漢。追放者が処刑されることもきっと知っていたのだろう。あいつが、自分を追放者に選ぶためにあれこれと裏工作したに決まっているのである。  元々いけ好かない男ではあったのだ。セリーナの美貌に一切靡かない、優しさの欠片も向けない、実力を認めないムカつく人物。あいつがパーセル家を牛耳るようになってから、何もかもがおかしくなったのである。  継承会議でも、それとなくあいつが指揮を執っていた。父もきっと、あの男に懐柔されたに決まっているのだ。 「許さない……!」  ぶちり、と。セリーナは右手の親指の腹を噛み切った。 「絶対許さないわ!復讐してやる。あいつの全てを奪ってズタボロにして殺してやるわ……!」  イーガン家の地下に封印されていた、禁術。昔こっそりと忍び込んで、その術を勉強していたことがここで役に立つとは。  ただ一度だけ使えるその魔法の名は、“逆行(バックワード)”。己が死んだ瞬間に、記憶を保持した状態で過去へと遡ることができる魔法である。一つの魂につき一度きりである上、死を経験しなければ使えないという博打技ではあるが――使うならば今しかないだろう。
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