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ベッドをどかして、その下に魔方陣を書くセリーナ。書く道具が自分の血しかないのが辛いが、今は贅沢を言ってはいられない。己の名誉のために、なんとしてでも成し遂げなければならないことがあるのだ。
戻れる期間は、約一年のみ。
その一年で、自分は何故己が追放者に堕とされたのかを突き止めるのだ。
そして、自分を追い詰めたあの男に復讐するのである。
――ふふふふ、目にもの見せてやるわ、トレイシー!
セリーナは思う。時間を遡ったら、何がなんでもあの男を籠絡させてやるのだと。自分に惚れさせて、思い通りに操って、最後の最後で捨ててやるのだ。そして、あいつを追放者に貶めてやる。裏切られた絶望を感じて、あいつも死んでいけばいい。これは、どこまでも正当な報復なのだと。
――私の虜にして、ゴミのように捨ててやるわ!見てらっしゃい!
幸いにして、セリーナは無事に魔方陣を書ききることができ、ベッドの下の魔方陣が処刑の日までに見つかることもなかったのである。
あとは、処刑の苦しみにセリーナが絶えられるかどうか。魔法使いの力を完全に封印するためには、普通に殺すだけでは駄目だというのが通例であったからである。つまり、拷問した上で殺さなければいけないのだ。
セリーナは全身に杭を打たれて、苦しみ抜いて死ぬことになる。この時、心が壊れて魂が崩壊してしまえばせっかくの魔法は成就しない。トレイシーへの憎しみを糧に、セリーナは死ぬその瞬間までを歯を食いしばって耐え抜いた。いつも手入れされて自慢に思っていた指を切り落とされても、両手の甲に大きなピアスを開けられても、腿や膝の骨を打ち砕かれる激痛に悶えても。
そして、意識が遠ざかり、どこか遠い場所へと力強く引っ張り上げられ‐――気が付いた時、セリーナは自分が死ぬ約一年前まで逆行することに成功していたのだった。
カレンダーの日付を見て、ほくそ笑む。
自分は、復讐のために人生をやり直すことに成功した。あとは、あの忌々しいトレイシーを自分の虜にして、ゴミクズのように捨てて踏みつけてやるだけ。
「悪いけど……私は悪役令嬢なんかじゃ終わらないわよ」
鏡の中。己の顔を見つめて、セリーナは笑ったのである。
「覚悟しなさい、クソトレイシー!最高のざまぁ展開を見せてあげるんだから!!」
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