<14・Enjoy>

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「トレイシーは運動神経が良いけれど、テニスの場合始めたのは高校生の終わりからだったからね。最初は彼も悲惨なものだったよ。見事に空振り三昧。当たるようになってからもホームランしっぱなし。テニスでホームランしたら駄目なのにねえ」 「……意外と、あいつにも出来ない事はあるのね」 「そうだね。それでも彼の良いところは、誰かと仲良くするための努力を惜しまないことと、それをひらけかしたりしないところだと僕は思っているな」 「仲良くするための、努力?」 「そうそう」  それ、と彼はラケットを振るような素振りをしてい語る。 「僕と親しくしたいと思ったから、彼は僕が大好きなテニスを影で一生懸命練習してくれたのさ。そういうのって、凄く嬉しい気持ちにならないかい?実際に彼が上手くなったかどうかじゃないんだよ。自分が好きなものを理解してくれようとする、そのために尽力してくれる気持ちが嬉しいっていうかさ。そう言う人のことは好ましく思うものだろう?」  だからね、と。彼はセリーナの頭をぽんぽんと撫でた。 「最近のセリーナはちょっといいよ!トレイシーに好かれるために、ちゃんとトレイシーが好きなものを理解しようと頑張ってる。遺跡見学に行くんだろ?今まで魔法考古学系なんてまったく興味なかったじゃないか」 「わ、私は別に!夕食のパーティとお料理に興味があるだけだし、べ、別にトレイシーに好かれたいわけじゃ!」 「そんなに照れなくてもいいのに!僕は、君とトレイシーが仲良くなってくれたらすごく嬉しいよ。応援する!」 「お、お姉様みたいなこと言わないでよ!」  一体何を考えているのか、と思う。小さな頃は仲良しだった二人が、また復縁したら気持ちが良いと思うものなんだろうか。彼らにとって、それはデメリットのある行為にはならないのか。  だってそうだろう。恐らくは兄もこの時点で、継承者にトレイシーを選ぶことと、セリーナを追放者にすることを考えていたはずである。その二人が仲良しになったら、彼ら個人のみならず一族全体にとってもあまり良い結果にならない気がするのだが。 ――本当に……トレイシーに好かれたいわけじゃなくて。好かれて、あいつを見返してやりたいだけなんだから。  セリーナは、鞄に入れようかどうしようかと悩んでいた赤いドレスを見つめて思う。トレイシーが、どういうものが好きなのか。こうして考えると自分は、彼の好きな色さえ満足に知らなかったと気づく。  今まではそれでいいと思っていたし、知ったところでなんだと鼻で嗤えていただろうに。どうして今は、そんな小さなことで胸が痛いような気がするのだろう。  ちょっとした優しさを向けられたから?気を使われたから?彼はセリーナが今まで望んできたような、己の絶対的信望者ではないというのに? 「……ドレスの色って」  ぽつり、とセリーナは呟く。
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