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――あんのクソ姉!足元見やがってええええ!
本当は、誰があんな姉のために桃の収穫作業なんかするか!というのが本音だったのである。情報源は、姉だけではない。そこまでしなくても、他に訊く相手はいくらでもいる。セリーナも断ろうとしたのだ、しかし。
『あらあらあらあら、そうね、無理はよくないですものね。セリーナってばお嬢様だから、まともに木登りをすることもできないしましてや本当に美味しい桃を見分ける眼もないし、なんなら木の上から落ちてもダメージを緩和する魔法をとっさに唱えるなんて判断力もなさそうですし。ああ、そもそもどうやって収穫をするのかとか、そういうコツも一切勉強したことがなさそうですものね、なんといっても今までメイドさんや執事さん達を馬鹿にしてきてたりいじめてばーっかりでちっとも仲良くしないものだから、そんな初歩の初歩といった情報もちっともお耳に入れてなくて、ましてやそういった方々に教えを乞うような殊勝な態度も取れないでしょうし。いえいいんですのよ、私は可愛い妹が怪我をしないならその方がずっと大事です。ただうちの妹はちょっとした運動もできないか弱い子だから、とてもじゃないけれどハードな恋愛なんてさせられないし、なんならトレイシーに興味があるけれどきっと無理ですよねって話をリオや皆さんにちょっとお話しておこうと思っているだけですから、ええ、ええ』
こんなことを、そりゃあもう早口でべらべらべらーっと言われてしまっては。セリーナも後に退くことなんてできないのである。ちなみに、リオ、というのは兄の名前だ。現在のイーガン家は上から順に長女のブリトニー、長男のリオがいて、末の妹がセリーナという構成になっているのである。
――絶対嫌がらせだわ!私がお姉様より優れてるからって嫉妬してるのよ、ああもうムカつく、クソムカツクううううう!!
そんなわけで、イライラしながら現在セリーナは訓練用の武術着に着替えているのだった。この国は、常に近隣諸国からの侵略の脅威に晒されている。よって、魔法使いもそうでない者達も、老若男女問わず常に何らかの武術を鍛えるのが習わしとなっているのだった。貴族の娘であるセリーナも例外ではなく、代々受け継がれた格闘術を家庭教師から学んでいる。同時に、学校でも武術を教える授業はあるのだ。
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