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「俺さぁ、綺麗な人、大好きなんだよね、女とか男とか拘らない」
え?
バイセクシュアル?
て事は、男もイケるって事なのか?
いや、駄目だ。
面白がってるだけだ。
「レジ袋は?」
「大きいの」
「L、でいいですか?」
「うん」
ずっと俺の顔を見ている。
普通、こんな事出来ないよな?
ちょっと、どこかズレてるのか、よっぽど自分に自信があるのかだと思った。
俺が思ったのは後者、自分に自信があるんだろう、女だろうが男だろうが、おそらく皆、池田誉さんに夢中になる。
「お会計は1,251円です」
「ん、モバイルでお願い」
池田誉さんは必ず「モバイルでお願い」と言ってスマホを出す。
黙って何も言わずにグイッとスマホを差し出してくる、感じの悪い客とは全然違う。
そんなところにも好感を持つ。
クレジットカードの時は
「カードでお願い」
電子マネーの時には
「電子マネーでお願い」
と必ず支払い方法を言ってくれる。
そんな端正な顔立ちにそれは、あまりに反則で、俺は嫌な思いをひとつもしない。
好感度が跳ね上がる一方だ。
「ねぇ、知秋ちゃん、俺さ明日から遠くに行くから、買い物に暫く来ないけど心配しないでね」
え?
遠くに? 買い物に来ない?
なんで? と訊きたかったけれどそうはいかず、
「知秋ちゃんはやめてください、別に心配はしません。かしこまりました、お気をつけて」
いつもの様に無表情で応えた。
「相変わらず冷たいねぇ、知秋ちゃんは」
ふふっと笑ってスマホをポケットにしまい商品を入れたレジ袋を手にすると、いつもの様に手をひらひらとさせて
「おやすみ〜」
と片唇と眉を上げた。
暫く来ないのか … 寂しく思う。
「春夏冬くん、知秋ちゃんて呼ばれてんの?」
すかさず藤井さんが裏から出て来た。彼が買い物に来た時は怖くて裏に隠れる、俺には好都合だけど。
「いえ呼ばれてません」
「呼んでたじゃん」
「勝手に呼んでるだけです」
「ふぅん、あの人、春夏冬くんが好きなのかな?あっ、春夏冬くんの事、女の人と間違えてんじゃない?」
いくら何でも、そんな訳はない。
「春夏冬くん、綺麗な顔してるから… って、俺はそういう趣味ないから誤解しないでくれよ」
しませんよ。
だとしたってどうでもいい。
「あの人、このマンションに住んでるんだってさ」
えっ!?
俯いていた目がパッと見開いて、顔を動かさずに視線だけを藤井さんに移す。
このコンビニは五階建てマンションの一階にあり、藤井さんが人差し指を立てて天井を指しながら教えてくれた。
そうなんだ… それだけで少し近付いた気になってしまう。
いや、それを言ったら藤井さんもそうなるか、と思ってすぐに考えを改めた。
にしたって、暫くは買い物に来ないという池田誉さん。
当分はバイトがつまらない。
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