もう恋はしないと決めた筈

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朝の五時までバイトでそれから帰って風呂に入って寝て、午後からの授業を二限受ける。でもバイトの上がりの場合の授業は殆ど寝ている。何気に体力充電の大事な時間。 そんな大事な時間を、たまに邪魔する奴がいる。 「春夏冬、高校の同窓会の通知来た?」 高校時代、酷く嫌な思いをしたから少しでも同級生と被らない大学に行きたかったが、結構な進学校で志望校は割と限られ、何人かと同じ大学に進学する事になった。 「知らない」 来てたとしたって行く訳がない。 「春夏冬が全然来ないって、皆んなお前に会いたがってるぞ」 嘘をつけ、俺は誰とも会いたくない。 「興味ない」 ひと言だけ残し、高校時代の同級生に背を向けて講義室を出た。 今夜はバイトだ、家に帰って少しだけまた寝ておこう。 「ミルクキャラメルラテオーレ? どんだけだよ」 誉さんの声が聞こえた、新商品の飲料を見て顔を顰めて言っている。 「お願いしま〜す」 今日もカゴいっぱいに買い物をしている。声に出していた商品も入っていた。 「な、これ、名前読んだだけで口の中、甘ったるくなんねぇ?」 ミルクキャラメルラテオーレを指差して顰めっ面。じゃあ何で買ったのかと思う。 「テープ貼って」 それを取り出し、またテープを貼れと言う。 言われた通りにテープを貼って後の商品をスキャンしていると続けて言った。 「飲みなよ」 懲りない人だな、と思う。 でも… 誉さんからだと思うと、何だか断りたくなかったし、正直この商品は気になっていた。 「ありがとうございます」 「えっ!? 知秋ちゃん、もしかして甘い物好きなの?」 「…… 知秋ちゃんは、やめてください」 その質問には答えずにスキャンを続けた。 「そっか〜、前にあげたコーヒーはブラックだったもんな、だからか、だからあんな風に断ったのか。マジで可愛い過ぎだわ、知秋ちゃん、甘い物好きなんて」 満足気に頷きながらニコニコと笑う。 断ったのはそういう事じゃない、お客様から頂くのは駄目だろうと思ったし、あの時は気になり具合が今程ではなかった。 店のオーナーにも確認した。 「男の人からでしょ?いいんじゃない、貰っても。女の子からだったら、ちょっとやめた方がいいけどね、気を持たせるみたいになるからさ、気を付けてよ」 いいんだ受け取っても、と確認は済んだ。 色恋沙汰は男と女の間だけだと思っているオーナーの見解。 『ミルクキャラメルラテオーレ』この商品は気になってたから素直にお礼を言った。 そうすると次には大福を、次にはシュークリームを、期間限定のお菓子を… と、それからは何か一品、甘い物を俺の為に買って置いていくようになった。 これはいい加減、思い過ごしではない、かな? そう思い始めたけれど、駄目だ、やめておけと心の中の俺が制止した。 あんな風に傷付くのは、二度とご免だ。
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