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「ダルいな」
久しぶりに、地上に降りて魔力を使ったせいか、体がだるかった。
「補給する?」
嫁である竜族がお誘いを申し出てくれたが、すげなく断った。
「残念」
口にしつつも顔は笑っているので、本当はそうでも無いようだ。
「下に行ったことは覚えているでしょう?」
「そうだな。覚えてる」
不思議な感覚だった、足が地面に着いた途端、色々な事を忘れてしまったのだから驚きだ。
しかし、戻ってきてみれば何もかもキチンと覚えている。これが竜族の番に科せられた制約だと言うのだから、なかなか面白い。
「しかし、困ったな」
「どうしたの?」
リシュデリュアルは大切な番の困りごとに興味を示した。
「俺がここにいることを、誰にも教えていない」
「ああ、そうか」
リシュデリュアルは、すっかり忘れていた。自分の大切な番は帝国と呼ばれる所の王子であったことを。
天帝に報告したので、それでよしと思っていたのだが、ニンゲンはそうはいかない。
「自分の部屋に結界作ってるんだよな」
フィートルがボソリと呟いたことがちょっとあんまり過ぎて、さすがにリシュデリュアルも困惑した。
「えーっと、さすがに解除してあげないとまずいと思うよ、僕は」
城の中に結界がはられた部屋があるだなんて、どんなダンジョンなんだろう。と想像しただけで残されたヒトたちが可哀想になる。解除しなければ、この先千年は開かずの間だ。
「一度、国に戻って部屋の片付けをしよう」
フィートルがそう言うと、リシュデリュアルは笑顔で頷いた。
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