さまよう

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「っこれは、本当に」  森の中に一歩踏み入れた途端に思わず声が出た。  だが、何がそうなのか、まるで分からなかった。  腰に下げている一本の棒、それさえも使い方が分からない。肌に感じる魔物の気配が、こんな棒一本で太刀打ちできるとは到底思えなかった。  だがしかし、持ち合わせている武器と呼べるのはこの棒一本しかない。  仕方なくそれを手にしてみると、よく手に馴染んでいた。手のひらから、使い方を全て理解した。この棒が伸びること、そして、この棒に魔力を乗せることを。 「はあっ」  左手で棒を握りしめ、振り抜きざまに伸ばし魔力を乗せる。なぎ払うように棒を動かすと、乗せた魔力が周りにいる魔物を打ち消した。乗せた魔力が当たった魔物は、何をするでもなくそのまま霧散した。  その後に赤い石が落ちたが、男はそれが何が分からなかった。とりあえず拾い集め腰に着いている袋にしまい込む。赤い石を入れてもいっぱいにならないし、手を入れると違うものが取り出せた。  水の入った水筒が欲しかったわけではないが、何かを口に含むことで、気持ちが落ち着いた。 「人の気配……」  少し離れたところに複数の気配があった。  何かを知りたくて、男はそちらに向かって歩き出した。
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