さまよう

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 オオカミ型の魔物十匹程に、冒険者と思しき男たちが対峙していた。  前衛に剣を構える剣士と、後衛に魔道士がいる典型的なパーティだった。  だが、四人は戦い慣れていないのか、前衛二人の剣士が魔物に剣を振っている間に、後衛の魔道士が補助の魔法を放つのがやや遅い。連携が上手く取れていないのか、ジリジリと距離が縮められていく。安全な距離間が今にもなくなりそうになっていた。  冒険者のプライドを傷付けるのも如何なものかと思ったが、目の前に死人が出る方が後味が悪いと判断して、魔力を放った。  棒に乗せた魔力は、オオカミ型の魔物たちを一瞬で霧散させた。後にはまた魔石が散らばる。 「嘘だろ…」  目の前で起きたことを信じられず、冒険者たちはその向こうに佇む人物を見た。  黒いフードで顔を隠した、中肉中背の男が棒を一本手にして立っていた。  フードから、少しだけ見えるのは黒髪だった。  この世界において、髪の色は己の魔力を示す色。  黒はすなわち闇魔法。使い手は多くない。ギルドに紹介を出せば、闇魔法の使い手は世界中から声がかかるぐらい希少な存在だ。  しかも、ここまで圧倒的な魔力を振るえる人物はそうそういない。剣ではなく棒一本でここまでの力を放てる人物。ギルドに登録されず、かつ世界中が知り得るただ一人の人物。  冒険者たちは、目の前にいる男の正体を正しく理解しながらも、言葉に出せないでいた。 「すまない、勝手をした」  抑揚のない声ではあったが、耳によく通る綺麗な声だった。訛りのない話し方から地方の者でないと理解出来る。  男はそう言いながら、手にしていた棒を腰に提げる。先程まで男の身長ほどあったはずなのに、腰に提げた時には短剣ほどの長さになっていた。  冒険者たちは、その動きをたた見ていた。礼を言わねばとは思いつつも、言葉を発することが躊躇われた。 「恐れながら……」  ようやく、剣士が口を開いた。  確認しなくてはならない大切なことだ。 「うん?」  フードで隠れて表情は見えないが、軽く小首を傾げた仕草をしたようだ。 「まさかとは思いますが、シヴィシス帝国の第三王子でいらっしゃいますか?」  剣士からの意外な言葉に、男は黙った。 「冒険者のため、あまり畏まれないことを許して欲しい。助かった。ありがとう」 「…ああ」
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