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男は返事をしつつも考える。
(俺が王子?)
「世間に出回る噂だと、シヴィシス帝国の第三王子は黒髪に黒い瞳、類稀なる闇魔法の使い手となっている。フードから見える髪が真っ黒だ。そこまでの黒髪はそうそういない」
剣士がつらつらと喋るので、男はようやく理解した。
世間に流れる噂だけで聞く第三王子の特徴を持っているから、そうなのではないか?という推測をぶつけてきたのだ。当たっていれば一大事ということだろう。
「闇魔法を操れる人物が希少だ」
更に付け足された項目に、男は納得した。覚えてはいないが、使い方は自然だった。
忘れてはいるが、どこかに行こうとしていた。
しかしながら、国の名前を聞いたところで帰り方が分からない。そもそもここがどこなのか?
「…ならば」
声に出してから考える。何が、得策なのか。
「俺にあったことを忘れろ。それはお前たちにくれてやる」
「わ、わかっ、た」
静かな物言いだが、気圧されるような言葉に剣士がようやく返事をした。魔道士は杖を握りしめて立っているのがやっとの様子。
男は踵を返し森の中に消えていった。
男の気配が完全に無くなったのを確認して、ようやく冒険者たちは動いた。
「あ、あの、助かった?」
杖を握りしめたまま魔道士がその場にへたり込んだ。支えがあっても立ってはいられなかったようだ。
「礼も言ったし、名前を呼ばなかったから大丈夫だろう」
剣を片手にようやく戦士が目の前の魔石を拾い始めた。
「口止め料?」
「王子様にとってはこの程度の魔石は不必要ってことなんだろう」
「俺たちからしたら、お宝なんだがな」
傷のない魔石が十数個、価値は高い。売ればパーティ四人で一ヶ月は楽に暮らせる。毎晩酒も飲めるだろう。
「依頼も達成してるし、とにかく街に帰ろう」
冒険者たちは、魔物の気配に気を配りなが、森をあとにした。
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