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フィートルはひっそりと自国の大地に立っていた。
いつもの通りにフードを被り顔を隠し、手袋をして手の甲の紋章を隠す。
魔素溜まりを見つけて、腰にぶら下げた棒を伸ばして浄化の作業の、魔力を注ぐ。
一つだけ違うのは、なぜこんなことをしているのか自分で良く、理解していない事だ。
大地に降り立った途端、色々消えてなくなった。
喪失感だけが自分の中にあると言うのに、何故か目的があった気がすると、ふらふらと足が進んだ。
何をどうしてどうなるか。それは感覚として理解していた。魔力の注ぎ方も、力加減もそうだと知っていた。
魔素溜まりを一つ無くす毎に、休憩を取りゆっくりとやすんだ。魔物の気配はそれなりにあるけれど、人とは誰にもあわなかった。
「だいぶ片付いたかな?」
思わず口にしてみたが、誰もいないため返事はない。
辺りを警戒しても、魔物の気配も遠ざかっていた。
少し開けた場所で、適当な木の根元に腰掛ける。
困ったことに、どうするかまったく検討がつかなかった。他に何かすることがあったのか?
木々の間から差し込む光を目を細めて眺めていると、何故かそこに人が立っていた。
陽の光を浴びて、若干輪郭がぼやけるようにも感じるが、確かにヒトの形をしている。
自分より幾分大きいのが分かった。
「気が済んだかな?」
ゆっくりと歩み寄ってきたそのヒトは、自分を覗き込むように顔を近づけるとそう言った。
「……よく、わからないな」
「うん、まぁ、初めてだからね」
手を差し出されたので、自然と握ってしまった。
「帰ろう」
返事を言う必要はなかった。
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