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巻・一
蒼白い月が煌々と辺りを照らしていた。
お堂はくっきりと歪んだ影を刻んでいる。
人里離れた山の頂にたたずむお堂はひどく荒れ果て、幾年も人の手が加えられておらぬように思われた。
寂しげな虫の声だけが鳴き渡り、季節の変わり目を告げている。
どう、と急に一陣の風が吹き、臭いを運んできた。
何ともいえず鼻につく、不快な臭いだった。
続いて、ズシリズシリと音がした。
黒雲が風に流され、天上の月を覆い隠した。
すると、暗闇に獣のうなり声が木霊した。
月が再び顔を出した時、三つの黒い影が現れた。
それは、お堂の前に立っていた。
毛むくじゃらの、お堂が小さく思えるほどの化物たちだった。
「今年もこの季節が来たんじゃのう」
「わしらはこれだけを楽しみに生き長らえてきたんじゃ」
「今年の娘はどんな味がするじゃろうか」
化物どもはしわがれた声で好き好きに言うと、ヒッヒッと気味の悪い声で笑い、お堂の中へと通ずる階段を昇った。
扉の前に立つと、一匹が開けた。
「ギイ」と鈍い音がした。
一匹が中に入ると、残り二匹も続いた。
中は外観同様に荒れ果てていた。
壁はいたるところ崩れ、床にはいくつもの裂け目があった。
ミシミシと中を進んだ化物どもは、すぐに足を止めた。
仁王立ちのまま、部屋の中央に置かれた物をじいっと見た。
そこには白木の棺が置かれていた。
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