巻・二

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二人は、いつの間にか木々が道の両脇から覆いかぶさるように生い茂る山道に入っていた。 鈴はきょろきょろと辺りを見回した。 そうしている間に、周囲は目に見えて暗くなってきた。 「何じゃ、まだ暗くなるには早いはずじゃが」 平十郎は木々の枝の間から見える空を見上げた。 空ばかりか木の枝さえも闇に溶け込むように見えなくなった。 夕暮れ時を通り越し、一気に夜の帳が下ろされたかのようだった。 「うん」 鈴は上の空で返事をした。 何とも言えぬ嫌な感じがした。 「こう暗くちゃ進めねえ。そこらで野宿するしかあるめえ」 平十郎は諦めたように言った。 鈴は、前方をじっと見据えていた。 鈴の目は細くなり、獣のように光っていた。 その鈴の目が、何かの光を捉えた。 直後、前方からかすかな声が聞こえてきた。 うんうんと唸っているような、喘いでいるような、艶めかしい女の声だった。 「誰ぞおるんか」 平十郎は暗がりの中、歩を進めた。 鈴も続いた。 十歩と歩かぬうちに、前方、道の脇の大きな松の木の根元に女が一人、もたれて座っているのが目に入った。 女は白い着物に身を包み、体も顔もほっそりとしていた。 色白でたいそう美人だったが、切れ長の妖艶な目が女の顔をきつめに見せていた。 鈴は首をひねった。 「おかしいな、こんなに暗いのに姿がはっきり見える」 鈴には、女の全身が青白く輝いているように見えた。
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