巻・二

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一方、平十郎は女に近づいていった。 「どうしたんじゃ?」 平十郎が優しく声をかけると、女は顔を上げた。 女の白く艶めかしい顔に、平十郎もどきりとした。 「はい、用を仰せつかり峠を越えようとしていたのでございますが、途中まで来たところご覧の通り足を挫いてしまったのでございます」 見ると、女の足を包んでいる足袋に血が滲み、赤く染まっていた。 「それは難儀なことじゃ」 「おまけにこの通り、すっかり暗くなってしまいました。 この辺りは狼が出るとも聞いており、どうしたものかと困り果てていたところでございます」 女はそう言うとうつむき、フゥとため息をついた。 白い肌の女だが唇だけが妙に赤く染まり、妖艶な雰囲気を醸し出していた。 「なあに、それなら心配には及ばん。 わしがいれば、もう安心じゃ、なあ、鈴」 女に優しげに言うと、平十郎は鈴の方に顔を向けた。 「そんなにのんびりとは出来ないみたいだよ」 鈴はじっと暗闇を見つめていた。 闇の中に黄色い光が見えた。 その光はみるみるうちに増えていった。 たくさんの目が、じっとこちらを見ているのだった。 「狼か!」 平十郎が声を上げた。 すると、それに呼応するように狼どもが暗闇から現れた。 目を光らせた狼の数は、見る間に増えていった。
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