巻・二

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平十郎が睨んでも狼どもが怯む様子は無く、その数はさらに増し、ついには数え切れぬほど集まった。 狼どもは唸り声を上げ、一歩、また一歩とこちらに近づいてきた。 「こんなところで狼の餌になってたまるかよ」 平十郎は周囲を見回しながら大刀を抜いた。 それを見ても、狼どもが怯む気配は無かった。 大木を背にした3人の周囲を、無数の狼たちがぐるり取り囲んだ。 狼どもはじりっじりっと間合いを詰めてきたが、あるところまで来るとぴたりと足を止め、平十郎たちに向かっていっせいに唸り声を上げた。 狼どもがそろって唸り声を上げる様は、何とも恐ろしげであった。 平十郎は、抜いた刀をじっと構えた。 睨み合いが続いた。 「血の臭いを嗅ぎつけて、これほど集まって来たのか。 それにしても、こいつらにいっせいに来られたら、どうなるかわからんぞ」 豪胆な平十郎の頬の横を、一筋の汗がすぅーっと流れ落ちた。 突如、前触れもなく、一匹の狼が高々と宙に躍り上がり、平十郎に襲いかかった。 平十郎は一撃でその狼を切り捨てた。 「きゃん」という弱々しい悲鳴を上げ、狼はばたりと音を立ててその場に倒れると、それきり動かなかった。 続いて二匹目、三匹目が襲いかかってきた。 これに対し、平十郎の大刀は二度宙を切り裂いた。 狼どもはやはり短い叫び声を上げ、重なるように死んでいった。
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