巻・二

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平十郎が立ち上がった時、女の白い着物の裾がめくれ上がった。 覗き見えた女の足は、びっしりと青黒い鱗で覆われていた。 一つ一つが大きく、気味の悪い色をした鱗だった。 だが、平十郎がそれに気づいた様子はなく、大刀を口にくわえ、女を背負ったまま松の木を登り出した。 狼どもはいっせいに平十郎めがけて襲いかかってきた。 が、平十郎は間一髪のところでそれを逃れた。 「鈴、何しとる」 平十郎が松の上から叫んだ。 茫然と立ち尽くしていた鈴は、ハッと我に返った。 平十郎と女を捕まえ損ねた狼どもが、今度はいっせいに鈴に襲いかかってきた。 鈴は何とかそれをかわすと、木々の間をすばしこく走り回った。 狼どもはその後を必死で追いかけた。 鈴は平十郎と女のいる松の木の下に再び来ると、目にも止まらぬ速さで上まで駆け登った。 鈴は平十郎と女の座っている太い枝までたどり着いた。 「何をやっとるか、自分で木に登れと言っておきながら」 平十郎が鈴の頭を小突いた。 鈴は叩かれた場所を小さな手で抑えながらも、表情には安堵の色が浮かんでいた。 「とにかく、ここまで来れば安心じゃ。なんせ、狼は木に登れんからのう」 平十郎は女の方を振り返って言い、女を背から降ろすと、どっしりとした太い枝に座らせた。 「平十郎、その女(ひと)」 鈴はぽかんと口を開け、枝の上の女を指差した。
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