巻・二

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すると、女はまるでそれを遮るかのように、 「あれをご覧なさいませ」 と言い、下を指差した。 平十郎も鈴もそちらに目を向けた。 三人のいる松の根元は騒然としていた。 数え切れぬほどの金色の目玉が光り、不気味な唸り声が響き渡った。 やがて、ざわついていた狼どもが急に静まった。 すると、一匹の狼が後ろ足で立ち上がり、前足で松に寄りかかった。 続いて二匹目が最初の狼の肩によじ登り、同じように前足で松の幹に寄りかかった。 三匹目、四匹目とこれに続いた。 さらに、それらの狼どもを踏み台にして、新たな狼が松の木を登ってきた。 「何じゃ?狼どもが次々に木に登ってくる。 まるで、梯子でもかけとるかのようじゃ」 歴戦の平十郎が、ひどく驚いていた。 「これが噂に聞く『狼ばしご』か・・・・・・」 鈴は、誰にも聞こえぬほどの小さな声で呟いた。 狼どもの築き上げたはしごは、平十郎たちが腰かけている松の枝の高さまで届こうか、というところまで来ていた。 狼たちの荒々しい息づかいが伝わってきた。 「かまわんわい、来たら斬り捨てるまでよ」 平十郎は太い松の枝の上で中腰になり、大刀を抜いた。 狼どもはとうとう、三人のいる枝の高さまでの狼ばしごを作り上げた。
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