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棺の中を覗き込んでいた化物の動きが止まった。
残りの二匹もおそるおそる顔を見合わせた。
すると、何かがその棺から飛び出した。
目にも止まらぬ速さだった。
「グギャォォー」
棺を開けた化物が恐ろしい叫び声を上げた。
叫び声は、お堂の周りはおろか、四里四方に届くかと思われた。
化物は、右目の辺りを手で押さえていた。
血が、汚れた床に滴り落ちた。
「グゥォオオ、目が、目がぁぁ」
片目に傷を負った化物は、お堂の床を転げ回った。
残りの二匹は恐れ慄き、見回した。
だが、この時、月が黒雲に隠されてお堂の中は真っ暗闇となり、何も見えなかった。
スッと小さな音がして、何かが床に降り立った。
わずかに遅れ、「チリン」という鈴の音がお堂の中に響いた。
「な、何者(なにもん)じゃ」
化物どもの問いに、すぐに返事は無かった。
代わりに、細く甲高い声がした。
人の赤子の泣き声のようなその声は、闇の中に糸を引くように響き、やがて消えた。
「あんたらだね。
神さんの名ぁ語って、人間の娘を生贄に差し出させてたのは」
女の声だった。
声からは勝気な感じが伝わったが、幼さもまだ残っていた。
声の主は暗闇の中、まだ見えなかった。
「誰じゃ、姿を見せんか」
化物どもが狂ったようにわめき散らした。
一匹が目に傷を負ったことで、かなり怯えていた。
その時、再び月の光が差し込み、お堂の中を照らし出した。
すると・・・・・・、
お堂の奥に何かがちょこんと座っているのが見えた。
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