22人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらくすると、遠くの方から「エイサ、エイサ」という掛け声のようなものが聞こえてきた。
声はしだいに大きくなり、平十郎たちのいる松の根元まで来ると止まった。
同時に地上の狼どもがいっせいに遠吠えを始めた。
何かの到着を待ちわびていたようだった。
さらに、人の話し声が聞こえてきた。
「城のじいさまが今着いたで」
「おお、なんと心強い」
「じいさまが来てくれたら、もう大丈夫じゃ」
狼どもは口々に喜びの声を上げた。
「城のじいさまだと?新手のヤツか」
平十郎は木の根元を見下ろしながら、刀の柄に手をかけた。
「城のじいさま?お城から来たの?」
鈴は注意深く眼下の狼の群れを見た。
闇の中だったが、鈴には狼どもの光る目だけで明かりとしては十分だった。
集まった狼どもの真ん中には、偉い人物が乗る駕籠が置かれていた。
「よっこらせ」
年老いた人の声がした。
続いて、駕籠の中かから何者かが姿を現した。
ゆっくりと地に足を着けたのは、白毛の巨大な狼だった。
「白い狼・・・・・・」
鈴が小さな声でつぶやいた。
「白い狼だと?やつらの親玉ってところか」
平十郎は刀を抜いた。
狼どもはぞろぞろと脇にどき、松の木の根元に至る道を作り上げた。
その道を白毛の巨大な狼がゆっくり、ゆっくりと進んできた。
最初のコメントを投稿しよう!