巻・二

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しばらくすると、遠くの方から「エイサ、エイサ」という掛け声のようなものが聞こえてきた。 声はしだいに大きくなり、平十郎たちのいる松の根元まで来ると止まった。 同時に地上の狼どもがいっせいに遠吠えを始めた。 何かの到着を待ちわびていたようだった。 さらに、人の話し声が聞こえてきた。 「城のじいさまが今着いたで」 「おお、なんと心強い」 「じいさまが来てくれたら、もう大丈夫じゃ」 狼どもは口々に喜びの声を上げた。 「城のじいさまだと?新手のヤツか」 平十郎は木の根元を見下ろしながら、刀の柄に手をかけた。 「城のじいさま?お城から来たの?」 鈴は注意深く眼下の狼の群れを見た。 闇の中だったが、鈴には狼どもの光る目だけで明かりとしては十分だった。 集まった狼どもの真ん中には、偉い人物が乗る駕籠が置かれていた。 「よっこらせ」 年老いた人の声がした。 続いて、駕籠の中かから何者かが姿を現した。 ゆっくりと地に足を着けたのは、白毛の巨大な狼だった。 「白い狼・・・・・・」 鈴が小さな声でつぶやいた。 「白い狼だと?やつらの親玉ってところか」 平十郎は刀を抜いた。 狼どもはぞろぞろと脇にどき、松の木の根元に至る道を作り上げた。 その道を白毛の巨大な狼がゆっくり、ゆっくりと進んできた。
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