巻・二

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「人間一人に手こずっちょるだと?情けない奴らじゃ」 白毛の狼は周りの狼どもを叱りつけた。 しわがれた、老人の声だった。 他の狼は、平伏するばかりだった。 白毛の狼は、すでに立てかけられてある狼ばしごに前足をかけると、ゆっくりと登り出した。 声同様、かなり年老いた狼の動きに思われた。 「何匹来ても同じこと。 またぶったぎってくれるわ」 平十郎は松の枝の上から暗闇を見おろし言い、大刀を構えた。 狼どもの無数に光る視線が見上げる先に、白毛の狼がいた。 平十郎が大刀を構えていても、まったく気にせぬ様子で、ゆっくりと登ってきた。 すでに地上からだいぶ離れたところまできていた。 闇に紛れていたが、よく見ると、白毛の狼は風呂敷包みをその背に負っていた。 「何、あれ?」 鈴が不審に思っている間に、白毛の狼はとうとう松の枝の上へとたどり着いた。 狼は松の枝の上にどっかと腰を下ろすと、前足で器用に風呂敷包みを開け、中から何やら取り出した。 一方、待ちきれん平十郎は掛け声を上げると、大刀で白毛の狼に斬りかかった。 平十郎の大刀の刃が、白毛の狼の大きな体を捉えた。 瞬間、鈍く耳障りな金属音が闇の中、辺り一帯に響き渡った。 大刀の刃が、なにかとても硬い物に当たり弾かれたような音だった。 平十郎の持つ大刀は、その手から滑り落ちた。 「し、しまった!」 平十郎の手を離れた大刀は宙を舞い、狼の群の真ん中に落ちると、木の根元に突き刺さった。
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