巻・二

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白毛の狼は牙が垣間見える大きく裂けた口を歪ませ、にたりと笑った。 その頭には二本の鉄の角のついた鎧兜をかぶっていた。 兜は重く頑丈そうであった。 「さすがは城の宝物庫にあった兜じゃ。 でかい刀が当たってもびくともせんわい」 そう言うと、白毛の狼はぎろりと平十郎を睨んだ。 「おまえが化け物退治の名人、平十郎じゃな」 年老いたとはいえ、白毛の狼の視線は鋭く、まさに獲物を見る眼差しだった。 「くそっ、刀が・・・・・・」 平十郎は眼下の大刀を見たが、どうすることも出来なかった。 一方で、松の木を取り囲む狼どもは、樹上を見上げていた。 「もうじき、あいつらが俺たちの腹の中に納まるのか」 「俺は平十郎よりも女の方がええのう」 「わしは小娘の柔らかそうな肉を食いたいわ」 狼どもは、口々に好き勝手なことを言い合っていた。 「もはや、これまでだな、平十郎。 すぐにきさまの息の根を止め、喰ろうてやるから覚悟せい」 白毛の狼は勝ち誇ったように言うと、兜を頭にかぶったまま、松の枝の上に後ろ足で立ち上がり、両の前足を大きく広げた。 それは見たことも無い巨大な狼だった。 大刀を失った平十郎は、なすすべなく狼を見上げるしかなかった。 首筋を、汗が滝のようにしたたり落ちた。 と、その時、後ろにいた鈴が、毬のようにぽんと跳びはね、平十郎の体を飛び越えた。 鈴は小さな体で、白毛の狼の前に立ちはだかった。
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