巻・二

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「お偉いさま、ちょっとばかしお待ち遊ばせ」 鈴は足元から白毛の狼を見上げ言い、にっこりと微笑んだ。 「何じゃ小娘が。邪魔立てする気か」 白毛の狼はイラついた様子で言った。 「まあまあ、お偉いさま、そう殺気立たんで。 平十郎を殺すのは後にして、まずはあたいの舞をご覧なさりませ」 鈴は自身の懐を探ると、着物の合わせ目から扇子を一つ取り出した。 そして、それを左右に振ったり、体を身軽にくるりと回転させたりして、松の枝の上で踊り始めた。 鈴の舞は軽やかで愉快だった。 これには白毛の狼も平十郎も、松の木の下から見上げる狼どもも見入ってしまった。 やがて鈴は調子のよい唄まで歌いながら舞ったものだから、観ている者たちはますます釘づけになった。 盛り上がってきたところで鈴は一度動きを止め、白毛の狼の方を向いた。 「さあて、それではこれから、めったに見られん面白いものをお見せしますで、あたいのこの手を目を凝らして、よーっく見ておきなされ」 そう言うと鈴は、自身の手を招き猫のように構え、続いてもう一方の手に持った扇子でその手を隠した。 居合わせた者みなが扇子に隠された鈴の手に注目していた。 「お偉いさま、そんなもん被っとったんではよく見れませぬ。 ちいっとばかし、顔を上げなされ」 鈴が白毛の狼を上目遣いに見てそう言うと、狼は言われるまま、深く被っていた鎧兜をほんの少し上へとずらした。 これを見た鈴の両の瞳がぎらり光った。
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