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「お偉いさま、ちょっとばかしお待ち遊ばせ」
鈴は足元から白毛の狼を見上げ言い、にっこりと微笑んだ。
「何じゃ小娘が。邪魔立てする気か」
白毛の狼はイラついた様子で言った。
「まあまあ、お偉いさま、そう殺気立たんで。
平十郎を殺すのは後にして、まずはあたいの舞をご覧なさりませ」
鈴は自身の懐を探ると、着物の合わせ目から扇子を一つ取り出した。
そして、それを左右に振ったり、体を身軽にくるりと回転させたりして、松の枝の上で踊り始めた。
鈴の舞は軽やかで愉快だった。
これには白毛の狼も平十郎も、松の木の下から見上げる狼どもも見入ってしまった。
やがて鈴は調子のよい唄まで歌いながら舞ったものだから、観ている者たちはますます釘づけになった。
盛り上がってきたところで鈴は一度動きを止め、白毛の狼の方を向いた。
「さあて、それではこれから、めったに見られん面白いものをお見せしますで、あたいのこの手を目を凝らして、よーっく見ておきなされ」
そう言うと鈴は、自身の手を招き猫のように構え、続いてもう一方の手に持った扇子でその手を隠した。
居合わせた者みなが扇子に隠された鈴の手に注目していた。
「お偉いさま、そんなもん被っとったんではよく見れませぬ。
ちいっとばかし、顔を上げなされ」
鈴が白毛の狼を上目遣いに見てそう言うと、狼は言われるまま、深く被っていた鎧兜をほんの少し上へとずらした。
これを見た鈴の両の瞳がぎらり光った。
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