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『甘いのはどちらか』
「甘い!」
木剣を構えて踏み込んでも、容易くかわされてしまう。よろけてたたらを踏んだところに足払いをかけられ、ひっくり返った喉元に、相手の木剣が突きつけられた。
「その程度の腕前では、まだ戦場に出す訳にはいかないな」
宣告を下す師匠の表情は険しい。早く一人前になりたいのに。この人と肩を並べて走り、背中を守れる強さが欲しいのに。悔しさに唇を噛むと。
「慌てる必要は無い。お前には見込みがある。いつかは私をしのぐ剣士になるだろう」
突然の高評価に目を瞠る。白いものが混じり始めた無精髭の口を緩めて、彼は告げる。
「とりあえず、一服だ。甘味を食って気分を変えるぞ」
この、私に甘いところも慕わしいのだ。
292文字。
『毎月300字小説企画』第2回お題『甘い』。
たぶんおっさん少女、な師弟の一幕。
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