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「おいっ、やめろっ、それは美羽がっ」
「寝言こいてんじゃねえぞ。ここいらは俺らの縄張りだって知ってんだろうが。よそ者になったおめえが気軽に足踏み入れてんじゃねえぞ、コラ!」
金髪のその人は男をにらんで何かを言おうとしたけれど、声を出すことはせずに鼻から垂れ落ちる血を拭っている。
そこであろうことか、私のコートのポケットの中のスマホがけたたましく音を立ててしまった。男達が秒速でこちらをにらんで来た。慌ててその場から立ち去ろうとしたら、足音が追いかけてきて、ガシッと両肩を掴まれた。
「おい、待てよ」
終わった……。
ああ、でも待って、もしこの人が生粋の甘党であるなら……イケる?
私は振り返るなり、持っていたコンビニ袋をズサッと男に捧げた。もちろん大事な醤油のボトルは小脇に抱えたままだ。
「こ、これ、よろしかったら!今、超人気のうさぎのスイーツなんですよ。買い過ぎちゃったから、よかったらお兄さんもどうぞっ!ほら、ちゃーんと三人分ありますよぉ!」
苦し紛れにそれを手渡すと、男は袋の中をじっと凝視して、それから私をガン見してきた。
「俺らはバリバリの辛党だ。砂糖は一切合切食わねえ」
それは私の頭上を彗星のごとく飛んでいった。
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