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勢いにまかせて口に出してしまってから、ヤバイと口を抑える。
けれどその産まれてはじめて口から出た啖呵は男達の耳にしっかりと届いてしまったようで、ああん?と睨まれてしまった。
もう後戻りはできない。
生唾を飲み込むと覚悟を決めて、もう片方の手でコートのポケットからスマホを取り出して空高く掲げた。
「これ以上彼に手を出すと、今すぐ警察呼ぶんだからっ」
「ああん?!」
金髪の彼が私の方に逃げるように身体を持ち上げてなんとか這って来た。急いで駆け寄って、彼らから庇うように立ちはだかる。それでも足元はかかとからカクカクと震えていた。それを薄目を開けて見つめていた彼がこんな状況だというのにありえないことに、クスリと笑った。目を細めて微笑んで。
鼻血があり得ないくらいに出ていてもはや彼がどんな顔立ちなのかさえわからなくなっていた。
あまりの酷さに可哀そうになってしゃがんでコートのポケットからハンカチを出して彼の鼻にそっとあてがう。
「あんたけっこう、度胸あるね」
「だって……やられっぱなしじゃ腹立つじゃない?」
勇んでそう返したら、彼は驚いたように私を見つめまたおかしそうに笑った。
「違いない」
顔全体が血まみれではあったけれど、切れ長の瞳が細くなって笑う顔が優しげに見えた。左下に小さな涙黒子が確認できる。
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