壱 ・ 喧嘩上等

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「あの……」 「主人は警察官なの。ここにいれば安全よ」  女性はにこりと微笑み、貴女は怪我はない?と身体を気遣ってくれた。すると少女が外を見て叫ぶ。 「ママ見て!美羽の作った雪うさぎが壊れてる!」  そう言った彼女の両目にみるみると涙が滲む。 「今、俺が直してくっから、待ってな」   起き上がろうとする金髪の彼。 「ちょっと、きみ怪我して……」 「元気になっちゃった、俺の天使に会えたから」  止めようとした私に彼は美羽ちゃんを見て優しく微笑む。そしてワゴンを降りて、蹴られて無残な姿になった雪の塊の方へとふらつきながら歩いて行った。美羽ちゃんも涙を拭うと車を降りて、二人は一緒に雪うさぎを作り始めた。  二人とも楽しそうで微笑ましい光景だった。さっきとはまるで違う平和な光景のそばで大男達が罵詈雑言を喚き散らしながら単車で逃げ去っていく。黒いコートの男の人はその様子を見送ると、二人の方へは行かずに真っすぐにワゴンに戻って来た。  やがて雪うさぎができたのか、美羽ちゃんがそれを手に大事そうに抱えて戻って来た。 「美羽ね、昨日まーくんと約束したの。帰るまでにうさちゃんにお顔付けてくれるって約束。だからお家に帰る前にもう一度見に来たんだ」  嬉しそうに私に話す彼女の手の中で、緑の葉っぱの耳をつけて、赤い梅干しのおめめと小枝で作られたスマイルを浮かべた雪うさぎはかわいい笑顔を見せている。
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