壱 ・ 喧嘩上等

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* この町で一軒だけのコンビニは国道に面している大手のコンビニチェーンで、車で十分も走れば高速のインターチェンジがある為、これから県内の観光地に向かう観光客やツーリングの集団で週末は混む。  店内に足を踏み入れると客は私以外誰もいなかった。自宅を出て十分程歩いてきてすっかり足が冷えてしまって爪先が痛い。帰ったらこたつで足を暖めようと思いながら、醤油を求めて調味料の棚を見回す。 「あったあった」  人がいないからと言って思わず漏れた独り言に自分でおかしくなりながら、醤油のボトルを一つ、カゴに入れてレジへ向かう。途中のデザートの棚もチェック。仕事の疲れにコンビニの甘いスイーツを買うこともあり、コンビニに来ると癖でつい目がいってしまう。  すると見慣れた棚の商品の中に見慣れないスイーツを見つけた。新商品と銘打たれたシールが透明なパッケージにピタリと斜めに貼られている。雪うさぎの形をした大福の中にごろっと丸ごと苺が入っているらしい和風スウィーツだった。  かわいい形に思わずささくれていた気持ちがほっこりとなった私はそれを家のお土産にしようと三つ取ってカゴに入れた。棚はそれで空になってしまって、人気商品なのだなぁと思う。  
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