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「……隣、見えないですね」
「なんだろ、何かガラスに塗られてんのかな?」
「いや……外と同じなんじゃないかな」
この車両で待つことにしたメンバーは、それぞれ座席に腰掛けて、僕たちの様子を見守っている。
彼らの間を抜けて車両同士を繋ぐ貫通扉の前までいくと、僕はそこで足を止めた。
通常であれば、窓ガラス越しに隣の車両の様子を窺い見ることができる。
けれど、目の前にある窓は真っ黒に塗り潰されてしまったような状態で、隣を覗くことはできない。
試しに指先でなぞってみても、感触はツルツルとした普通の窓ガラスそのものだ。
一切の光を通さない黒は、ペンキや何かが塗られているというよりも、外の景色が見えないのと同じような気がした。
「入ってみるしかないってことか……」
「お化けとか、いないですよね……?」
「大丈夫だよ、お化けなんていないって」
扉の向こうの光景を想像して恐怖したらしい桧野さんが、僕のコートの裾を握っている。
よほど怖がりなのかと思ったが、こんな状況なら仕方がない。
意を決して扉を開けようとした時だった。
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