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「え……清瀬くん? びっくりした、もしかしてバイトの帰り?」
「はい、高月さんは今日シフトじゃなかったですよね?」
「うん、私は大学の友達と忘年会。今年で最後だから」
少し眉尻を下げて笑う彼女の顔は、疲れているように見える。
友達との忘年会なら楽しいものだったのだろうが、彼女は来年就職だ。いろいろと忙しくしているのだろう。
彼女・高月紅乃さんは、僕の一つ上のバイトの先輩だ。
明るくて優等生タイプではあるのだが、冗談を言って場を和ませることもある。いわゆる、マドンナ的存在の女性だ。
バイト先でも、彼女を狙っている男は多いと噂に聞く。……僕もまた、その男の中の一人だった。
「年の瀬なのに、こんな時間まで仕事なんて大変だよね。清瀬くん、ちゃんとご飯食べてる?」
「はい、休憩時間にコンビニで済ませましたよ」
「……うそ」
「え?」
ごく普通に返したつもりだったのだが、高月さんはどうしてだか、ムッとした顔をしている。
「清瀬くんて、嘘つく時に二回瞬きするんだよ。知ってた?」
「え……してました?」
「してました」
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