01:平凡な人生

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 自分にそんな癖があったなんて、指摘されるまで気がつかなかった。  誰とでも打ち解けることのできる人だと思っていたけど、こんな風に人のことをよく見ているからこそ、できることなのかもしれない。 「よく見てるんですね」 「……清瀬くんのことは、よく見てるよ」 「え……、えっ?」 「あ、電車くるみたい」  少し潜めた声音で落とされた言葉に、僕は一瞬固まってしまう。  それがどういう意味なのかを問い返そうとした時、電車が到着するというアナウンスが響いた。 (どういう意味って……深い意味なんかないよな)  高月さんは、面倒見のいい先輩だ。  僕に限らず後輩のことはよく見ているし、お客さんや店長に対する接し方も上手い。  こんなにも近い場所にいるのに、僕には手の届かない、高嶺の花だ。 「うっそ、そんな話信じてんの!?」  高月さんの背中を見つめて物思いにふけっていた僕は、自身の後ろから響いた声に意識を呼び戻される。  肩越しに振り向いてみると、どうやら二人組の若い女の子らしい。年末とはいえ、こんな時間まで遊び歩いていたのだろうか?
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