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口裂け女だとかトイレの花子さんだとか、ありもしない存在に恐怖して、それを友人と共有する。
そうした都市伝説のいくつかは、もしかすると実際の事件が基になっているものもあるのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、速度を落とした電車がホームに滑り込んできた。
流れていく窓越しに見える車内には、すでに多くの人が乗り込んでいる。これから自分もあそこにすし詰めになるのか。
その状況にうんざりする間もなく、順番待ちをしていた人々が、開いた扉の中へ列をなして吸い込まれていく。
「わ……っ、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
「大丈夫。わかってたけど、人多いね」
僕の目の前に高月さんがいることで、直前まで感じていた嫌な気持ちが一気に吹き飛ぶ。
立ち位置を選ぶこともできずに、車内の奥へ押し込まれた僕は、辛うじて座席横の手すりに掴まることができた。
けれど、高月さんは掴まる場所を見つけられずにいるようだ。ヒールのある靴を履いているし、このまま動き出せば体勢を崩してしまうかもしれない。
「……あの、良かったら僕に掴まってください」
「え? でも……」
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