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02:乗客
「……ッ…………ぅ、……」
ふわふわと、水の中で揺すられているような感覚。
後頭部の辺りに鈍い痛みを感じて、暗闇の底に沈んでいた意識がゆっくり浮上していく。
瞼を持ち上げてみると、見えたのは揺れる吊り革と、何かのアニメのアプリの吊り広告だ。
あれは今年流行していた……ダメだ、さすがにタイトルまで思い出すことはできない。
僕はどうやら電車の中で仰向けに倒れ込んでいるらしく、手足は問題なく動くように思う。
片腕を持ち上げて頭を触ってみるが、出血したりもしていないらしい。
ゆっくり身体を起こすと、僕は車内の異変に気がついた。
「あれ……? みんな、どこ行ったんだ……?」
忘年会シーズンの、週末の最終電車。
立ち位置を選ぶことすらできないほど、車内はすし詰め状態だったはずなのに。あれほどいた乗客たちの姿はなくなっていた。
いや、正確には十名ほどの人間が、僕と同じように倒れているのが見える。
「っ、高月さん……!」
車両の端に、壁に背を預けるようにして横たわっている高月さんの姿を見つけた。
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